あらすじ
少年は見たこともない子どもたちと出会い、見たこともない青い海を見た!主人公・立花新一はただひとり東京をはなれ、父の友人、野上源一郎の家に身をよせる。はじめはおそろしく感じた炭坑町での暮らしが、しだいに主人公の心のなかですがたをかえてゆく・・・。(文庫あらすじより)
都会育ちの少年(12歳)が、父親の仕事上の理由で、九州の炭坑町の貧しい一家に預けられた1年間のお話です。
年は1963年、東京オリンピックの前の年なので、けっこう古い時代背景になります。
お坊ちゃまが田舎の生活にとまどいつつもなじんでゆくさわやかな物語なのですが、いくつかの見どころがありますので紹介したいと思います。
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炭坑町の子どものたくましさ
新一は、身をよせる野上家の子で同い年の竹雄とはすぐに打ち解けることができました。
竹雄は同じ小学6年生でありながら、新聞配達の仕事をして自分でお金を稼ぎ、あくどい大人とも対等に渡り合うたくましさを持っています。
都会で名門校に通い裕福な生活をしてきた新一は、6年生だというのに家政婦のスナに甘えてばかりでなにひとつ自分の力でしたことがありません。
竹雄と過ごした体験のすべてが新一にとってカルチャーショックであり、成長のきっかけになってくれます。
子どもを持つ親としては、子どもに与えるべきものって何なんだろうと考えさせられました。
ヨットでのひと夏の冒険
竹雄はヨットで世界一周するのが夢です。
ちょっとネタバレになってしまいますが、竹雄は新聞配達で貯めたお金でヨットを手作りしていて、夏休みに近くの無人島まで行く計画を立てています。
それに新一も同行することになります。
少年が勇気をもって夢への第一歩を踏み出すシーンは、きれいな海の描写と相まってとても爽やかで感動的です。
しかしこの冒険は、思いもよらない形で終わってしまうのですが・・。
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東京オリンピックの光と影
少年の成長とともに、もうひとつこの物語のポイントになっているのが東京オリンピックです。
東京では、開催されるオリンピックのためにたくさんの新しい建物が作られ、好景気に沸きあがっています。
一方で、石炭➡石油へのエネルギー革命により炭坑は次々と閉鎖され、新一の暮らす炭坑町もすっかりさびれています。
光の強く差すところには、より濃い影ができる。
そんな中でも夢をもってたくましく生きる、子どもが本来持つバイタリティのようなものを描きたかったと作者は言っています。
描写は淡々と
少年二人でヨットに乗り海に漕ぎ出したり、炭坑の事故があったり、見せ場の多いよくできた物語だと思います。
なのに、なんとなく盛り上がりに欠ける印象でした。
作者の意図なのか作風なのか、ここからがクライマックス!というところが描かれず後日談として出てくるのです。
泣こうと思ってハンカチ用意したのに、シーン変わっちゃった!という感じなんですよね・・。
素直に大盛り上がりしてくれる方がわたしは好みです。
同じような少年の成長を描いたお話では、わたしは『14歳の水平線』の方が素直にボロ泣きできて良かったです。
ニライカナイとは
タイトルの「ニライカナイ」は、沖縄の言葉で『海のかなた』という意味です。
手作りのヨット「ニライカナイ号」で海に出る少年たちは、これから大人になって社会という大海原に漕ぎ出す姿と重なります。
『ニライカナイの空で』は青い鳥文庫からも出ていて、子どもに読ませて間違いのない、読みやすいお話なので、高学年の読書におすすめです。
第16回坪田譲二文学賞受賞作。
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