ミステリーだけじゃない、東野圭吾
東野圭吾といえば、ガリレオシリーズなどで知られるミステリー作家です。
東野作品は当たりはずれがなくどれを読んでもおもしろいので、長女も好んで読んでいます。
ミステリーが多い東野圭吾ですが、社会問題をテーマにした作品も書いています。
理系の小説家らしく科学的論理に基づいた切り口はとても鋭く説得力があり、幅の広い作家だなぁと感心してしまいます。
『人魚の眠る家 』は、脳死状態になってしまった娘とその家族の物語です。
『人魚の眠る家』あらすじ
播磨和昌と薫子は、離婚を前提に別居中の夫婦。
薫子と暮らしている娘の瑞穂が、プールの排水口から指が抜けなくなり脳死状態になってしまいます。
日本では、脳死は臓器提供をする場合のみ「死」であり、そうでない場合は「心臓死」が「死」であると定義しています。
一瞬、瑞穂の手が動いたような気がした薫子は、臓器提供はせずに自宅で介護することを決めました。
脳死は"死"なのか?
臓器提供すれば救える命があります。でもそれには、まだ温かいわが子とお別れしなければなりません。
脳死は生き返ることはなく、外国では「脳死=死」として扱う国が多いそうですが、日本では家族に選ぶ権利が与えられています。
日本での臓器提供者がとても少ないせいで、財力にものをいわせた日本人が外国で臓器提供を受けている現実もあります。
臓器提供をすることが合理的とわかっていても、自分の子どものこととなるとその判断をするのは無理に等しいでしょう。
いつ自分の身に起きてもおかしくないことだけに、考えずにはいられません。
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最新技術で脳死の体を管理
人間のからだというのは、脳からの指令によって脈や呼吸やホルモンなどを調節し維持しています。
脳死状態になるとその調節ができないため、機械によって管理する必要があります。
しかしそれでも結局"統合性"が保てなくなって、心臓死に至るのが普通です。
ところが、薫子の夫は「ハリマテクス」という最新医療技術の会社を経営しています。
薫子は研究途中のその技術を利用し、瑞穂に横隔膜ペースメーカを埋め込み自力で呼吸させたり、神経に電気の刺激を与えることで手足を動かしてみたりします。
それがまわりの人に「気味悪い」と思われてしまい、追い詰められた薫子は「瑞穂は生きているのか死んでいるのか」を問う賭けに出るのですが・・。
このあたりの展開、最新技術を持ち出してくることで「脳死」を認めることの難しさをさらに際立たせてくるのが東野圭吾らしいです。
お別れには、時間が必要
結局3年後に、瑞穂は統合性を乱し危篤状態になります。
そのとき薫子は、自分は娘のために最善を尽くしたという満足感から、やっと臓器提供を選べるのです。
大切な人の死は、どのように訪れても受け入れがたいものです。
でも時間をかけて向き合うことで、納得できることもあるのかもしれません。
まとめ
答えを出すのがとても難しい「脳死」という問題に、鮮やかに斬りこんだ作品です。
大人向けの本ですが、高学年くらいの子が「脳死」を知り、考えるきっかけになるのではないかと思います。
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