作品と作者について
鳴海風は、和算を題材にした歴史小説をよく書いている日本の小説家です。デンソーに勤めていた元技術者でもあります。
タイトルを見ただけでは、小説なのかノンフィクションなのか判断がつかないかもしれませんが、この作品はほぼ小説です。
というのも、主人公の関孝和は実在の人物ですが、どこで産まれてどう育ったかなどの資料がほとんど残されておらず、作者の想像で書かれた部分が多い作品だからです。
算数が苦手な長女は『円周率』と聞いただけで「うげぇ!」となっていましたが、開いてみるとおもしろかったようであっという間に読み終えていました。
時代背景と関孝和について
この小説は、歴史の勉強にとても役立ちます。
描かれているのは江戸時代の半ば、4・5代将軍の頃で、戦はなく平和な時代。
関孝和は武士の生まれで一応腰には刀を差していますが、それを抜く機会はありません。幸せな時代に生まれた人なのですね。
歴史が動くような出来事は特になかった時代なので、歴史の授業では覚えるべきこともなくさらっと流すだけだったと思います。(テストに出ることといえば、五代将軍綱吉の生類憐みの令くらいでしょうか。)
でも、教科書に詳しく載らないこの時代にも人々の生活は営まれていて、特に武家の生活は現代のわたしたちに近いようなところがあり親近感を覚えました。
武家の子どもは剣術や儒学や数学をそれぞれの塾に習いに行き、大人になると役所などに勤めるようになります。
孝和は子どもの頃から数学が好きで、剣術や漢文はキライ。
できれば数学者になりたいと望んでいましたが、遊学中に養子縁組の話があり、勘定役として勤めに出ることになります。
学問の道を究めたいと望み、才能も持ちながらも、現実は"御用第一(仕事優先)"にしなければならないのは今のサラリーマンと同じです。
そんな中でも、空いた時間に数学の研究に励んだ孝和の純粋な生き方が心に残る物語です。
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感想
円の面積は公式(半径✖半径✖3.14) を使えばすぐに求められるけれど、なぜそうなのか?3.14てどこから出てきた?というのは算数を勉強していて最初に出会う迷宮だったような気がします。
よくあるミカンの皮みたいな図とか、正多角形の外周の和と直径の比率だとか、ちょっと考えることを放棄したくなるような(笑)難しさです。
きっとそう思っている子どもたちにとって、江戸時代にそんなことを好き好んで一生懸命研究していた人の存在を知ることは新鮮な驚きだと思います。
どんなことも、疑問に思った人が勉強して研究することによって解明されてきました。
「わからない=これからわかる可能性がある」ということです。
この本を読んで、疑問に思うことの大切さを知り、算数を少しでも身近に感じてくれたらいいなと思います。
それに、関孝和ってほんとうにすごい人なんです。
彼の発見は、ドイツの数学者ライプニッツやスイスの数学者ベルヌーイよりも早いものがあったのです。
しかし日本は鎖国中だったので、それがわかったのは孝和の死後ずっと経ってからです。
西洋では、最初の理論の発見者が、それに自分の名前をつけて名誉としたのに対し、江戸時代の数学者たちは、そのようなことを考えもしなかった。かれらはただ数学が好きで、真理を知りたかっただけである。(あとがきより)
孝和は、当時今でいう中学レベルだった日本の数学を、一気に大学レベルまで引き上げたと言われています。
明治以降、日本が西洋の数学や技術を取り入れる際、日本の数学者たちがそれを難なく理解できたのは孝和の功績があったからです。
鎖国中にも、日本の学問が遅れずに済んだのは、孝和の純粋に数学を愛する気持ちがあったからなのです。
その知名度には釣り合わないほどの偉人だなぁと思いました(*^^*)。
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