とても面白い本に出会いました。
『ブロード街の12日間』1854年に、ロンドンの下町ブロード街で実際に起こったコレラ大発生をもとにしたお話です。
当時コレラにかかった人は、脱水症状で顔が真っ青のしわしわになって死んでいったので"青い恐怖"と呼ばれていました。
2015年の読書感想文コンクール・中学生の課題図書だった本ですが、小気味よいテンポで謎解き要素もあり、大人が読んでもハラハラドキドキの作品でした。
あらすじ
13歳の浮浪児イールは、ロンドンの下町テムズ川の周辺で泥さらいやお手伝いなどをして暮らしています。
ある時仕事場で泥棒の濡れ衣を着せられ、無実を証明してもらうために仕立て屋のグリッグズさんを訪ねると大変なことが起きていました。
グリッグズさんは、コレラにかかっていたのです。
コレラは、信じられないような勢いでブロード街に広がっていきます。
イールは知り合いのスノウ医師に助けを求め、コレラの原因を突き止めるべく動き出します。
当時、コレラは悪い空気で感染すると信じられていました。瘴気説です。
しかし、コレラが消化器官を侵すことから経口感染であることを疑っていたスノウ医師は、原因は井戸水ではないかと考えました。
でも井戸水は、市民の生活に欠かせないライフラインです。簡単に止めることはできません。
井戸のハンドルを外すためには、ブロード街の井戸水がコレラの原因となっていることを、委員会のある4日後までに証明しなくてはなりません。
命を懸けた、緊迫の4日間の始まりです。
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感想
たくましく生きる、下町の浮浪児
当時、生活排水も排泄物もテムズ川にそのまま流されていたので、テムズ川は汚れてひどい臭いがしていました。
そのドロドロのテムズ川で、金目の物を拾うのが泥さらいです。
汚いですね・・。それだけで病気になりそうです。
そんな生活の中でも、前向きに、大切なものを守って生きようとするイールがまず魅力的です。
このお話では、弱い立場のイールを陥れようとする大人もいるけれど、その賢さや真面目さをちゃんと見ていてくれる大人もたくさん登場します。
なので悲壮感はなく、読後感は爽やか。
「証明」とは何か
主人公のイールや下町の友人などは架空の人物ですが、スノウ医師は実在した人です。コレラ大発生の時に、実際に発生源を突き止めた疫学のお医者さんです。
コレラは瘴気が原因だと100年以上も信じられてきたので、その常識を覆すにはきちんとした証明が必要でした。
what(なにが起こっているのか)、who(だれがコレラにかかったのか)、where(どこに住んでいる人がかかったのか)、when(いつかかったのか)、why(なぜかかったのか)。
5つの"W"を足を使って調査して、ブロード街の「コレラ地図」を作りました。
でも、それだけでは委員会を納得させることはできません。
因果関係を証明するためには、"例外"を見つけなければなりません・・。
つまり、ブロード街から遠く離れたところで、ブロード街の井戸水を飲み、コレラにかかった人を見つける必要があったのです。
このあたりの調査のくだりは、常識にとらわれず、混沌の中でも論理的に考えて答えを導き出すことの大切さについて考えさせられました。
こうやって、人は様々な問題を解決して生きてきたということを、子どもが感じてくれたらいいですね。
公衆衛生とは何か
井戸水がコレラの原因である可能性が出てきた時点で止めていれば、被害はもっと小さくて済みました。
でも、それはできませんでした。
井戸水は人々の生活に欠かせないものなので、あいまいな理由で奪うことはできなかったのです。
福島第一原発の事故の時も、危険かもしれないと言われていたのに水道の水が止まることはありませんでした。
現代でも、人々の混乱や不便を避けるために実施することができない予防策はたくさんあります。
公衆衛生って難しいなと思いました。
カミュ『ペスト』を思い出しました
たしか中学生くらいの時に読んだ、カミュの『ペスト』を思い出しました。
こちらも、不衛生だった時代のヨーロッパでペスト(黒死病)が流行り、封鎖された町の中で医師たちが戦うお話だったと思います。
『ペスト』は大人向けの文学なので、"不条理"がテーマでした。
『ブロード街の12日間』は、もっと前向きで明るく(?)描かれているので、児童文学版『ペスト』といったところでしょうか。
『ペスト』も、また読んでみたくなりました(*^^*)。
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