北野武監督の『首』がU‐NEXTで配信されました。
実はわたしはU‐NEXTヘビーユーザーであり、この配信を楽しみにしていました。
冒頭、森の中を流れる小川に浮かぶいくつもの武士の死体。キタノブルーが美しく、無惨な情景なのに思わず見惚れてしまい、一瞬にして引き込まれます。
カメラが寄っていくとその死体の一つには首がなく、真っ赤な切り口から数匹の蟹が出てきました。
エンターテイメントとしてまた芸術作品としても素晴らしいのですが、今回は教育ママの日本史学習視点で感想を書いてみたいと思います。
荒木村重の謀反
物語は、荒木村重が謀反を起こし有岡城に籠城して1年3か月というところから始まります。
荒木村重の事件は、2022年に直木賞を受賞した『黒牢城』(米澤穂信)で描かれたのが記憶に新しいですね。謀反を起こして敗れ一族皆殺されたのに、自分だけ逃れて生き残った人です。
(6月に文庫版が発売されます!)
この村重が、逃げていたところを秀吉の配下に捕まり光秀に引き渡され匿われます。
村重と光秀は恋仲です。北野監督らしい設定でニヤリとしてしまう面白さですが、子どもに見せられるものではありません。
織田信長の描写
織田信長ほどテレビよく見かける武将もいませんが、その描かれ方は多様です。
最近では、大河ドラマ『麒麟が来る』での両親に認められたくて弟に嫉妬している信長が意外でした。『どうする家康』では、強くて怖くてカッコいい普通の信長でしたね。
『織田シナモン信長』というアニメでは、信長は本当は温厚な常識人なのに、信長公記を書いた太田牛一が話を盛りすぎたという設定でした。
『首』での信長は、尾張ヤクザといった感じでこれまで見た中で一番狂っていて恐ろしかったです。それなのにどこか格好良く見せてしまう役者さんがすごいなと思いました。
本能寺の変
諸説ある本能寺の黒幕ですが、今回は監督自身が演じている秀吉が光秀をけしかけたということになっています。
信長は跡目をとらせることをエサにして武将たちを働かせていたけれど、じつは息子の信雄に継がせるつもりでした。
それを秀吉から聞かされた光秀が怒ったわけです。
本能寺に火が放たれ、信長は「是非もなし」というわけでもなく敦盛を舞うわけでもなく、森蘭丸をササっと介錯してあげて黒人の側近・弥吉に突然首を刎ねられます。
信長の首がコロコロっと転がって・・その首の"軽さ"こそがこの作品のテーマのようです。首を切られるシーンがとにかくたくさんあるのですが、どれも本当に軽いんです。ザシュッ!コロコローンっといった感じで。
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山崎の戦い
最後は光秀が秀吉に敗れる山崎の戦いですが、これがもう死のフィナーレといわんばかりにどんどん死んでしまいます。
史実としてその先まで生きることがわかっている人物以外はみんな死んでいきます。
明智光秀は落ち武者狩りの農民に竹槍で刺され、その後自害します。(ここは史実通り)
ラストシーンは秀吉による首実検で、光秀っぽい首を「きたねーな!」と言って蹴っ飛ばして終わり。
史実とのギャップ
この映画は大筋で史実に忠実でありながら、大胆な解釈やキャラ設定が魅力の一つとなっています。
秀吉が備中高松城を水攻めする場面、城主の清水宗治が船上で切腹するというシーンがあり、史実では立派な最期に感動したことになっています。
ところが『首』では、先を急ぐ秀吉が「まだやってんのかよ!」と悪態をつきどうでも良さそう。
徳川家康の影武者は、いとも簡単に次々と殺されて何人でも代わりが出てくる。
時代劇というと、武将が重々しい口調で~ござる!とか言っていたり、物々しい雰囲気で誰かが切腹してそれを皆で神妙な顔をして見守ってというイメージがあります。
そんな王道の時代劇を鼻で笑ってコントみたいにして、考えようによっては少しおふざけが過ぎるようなパロディ感はあります。
でも、いや、実際は意外とこんな感じだったかもしれないな?と思ってしまうようなリアリティもあったりして、嫌な感じはしないのですよね。
名だたる武将がみんな腹黒く薄汚く描かれていて、誰にも感情移入することはできません。
とてもじゃないけれど、小さい子どもに見せられる映画ではありません。
でも、ある程度いろいろな歴史ものを見たり読んだりしてきた大人にとっては、とても楽しめる作品でした。
ただ一つ気になるのは、荒木村重は毛利に逃げて生き延びるはずなのに、光秀に裏切られて木箱に入れられ崖から落とされてしまうんですよね・・
村重だけ「首」になっていないということは、死んでいないってことなのかな。
- おすすめ年齢:高校生~
- 学べる時代:戦国時代
原作本もおすすめです。
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