『夜、すべての血は黒い』(ダヴィド・ディオップ著)を読みました。
2018年刊行、ブッカー国際賞を受賞しています。
これはすごい本でした。
冒頭部分のあらすじはというと、第一次世界大戦時フランスのセネガル兵アルファは、前線で親友を失ってしまいます。
その親友マデンバは、敵に腹を切り裂かれて致命傷を負ったとき、アルファに殺してくれと頼みました。
しかしアルファは、その頼みを聞いてやることができませんでした。
マデンバは三度頼みました。
最初は穏やかに、それがやがて毒づきわめいて泡を吹いても、できませんでした。
それは、自分の父親はそのことをどう思うだろうとか、世間体のようなよくわからない人間の掟に従った結果、できなかったのですね。
親友が死んだ瞬間、アルファは、自分の好きに考えることができる=人間になりました。
そして、自分がまだ人間ではなくて、自分の頭で考えることができなかったから、親友にあんな死にかたをさせてしまった、一度目で殺してやるべきだったと、取り返しのつかない後悔を抱えることになります。
終始アルファの独白のような形式で書かれているのですが、
「マデンバは、おれの親友は、おれの兄弟以上の存在は」
「神の真理にかけて」
「知っている、わかっている」
と畳み掛けるようなくり返しを多用していてものすごい迫力。
戦争の狂気などと言ってしまえば簡単ですが、建前の正義も恐怖心さえも取り払った兵士の心理状態がとても生々しいです。
正義も英雄もあるわけないよな…とわかる剥き出しの戦争文学。
読んでよかったです。